この記事は約 13 分で読めます。
「放送通訳」の仕事をご存知でしょうか?
放送通訳は、海外の最新ニュースをわかりやすい日本語に訳して、テレビの視聴者にいち早く伝える仕事です。国際報道の最前線で、世界の動きを身近に感じられる仕事に憧れを抱いている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、そんな放送通訳者の仕事内容、必要なスキル、なるための方法についてくわしく書いていきたいと思います。これから目指す方は、参考にしてみてくださいね。
記事の目次
放送通訳とは?
アメリカCNNやABC、イギリスBBCなど、海外の最新ニュースを即座に日本語に訳し、テレビを見ている国内視聴者にわかりやすく届けるのが放送通訳者の仕事です。
昨今は、地上波に加え、BSやCSといった衛生放送の多チャンネル化が進み、放送通訳の需要は拡大しています。とはいっても、メディアの最前線で活躍する放送通訳は、通訳の中でもっとも人気が高く競争率も激しい分野です。
活躍の場が増えても、一般通訳に比べるとまだまだ狭き門。現在活躍中の通訳者も、会議やビジネス通訳を経て放送の世界に入ったり、会議通訳と並行して仕事をしたりしているのが現状です。
NHK BS1、日経CNBC、CNNj、BBC ワールドニュース、TBSニュースバードなど
仕事内容は?
放送通訳は、外国のニュースを日本語に訳す場合と、日本のニュースを外国語に訳す場合、大きく2つのパターンがあります。前者は日本人向け、後者は在日外国人や観光客向けになります。
一般的な仕事の流れは、海外から届いた最新のニュース映像を確認し、国内放送されるまでの短時間(10〜15分程度)でメモを取り準備をします。番組がスタートしたら、映像に合わせて通訳をしていきます。
ただし、大事件や災害などの緊急ニュースが入った際には、複数の通訳者が交代しながら同時通訳(リアルタイムで通訳すること)で対応します。
例えば、全世界に衝撃を与えた2001年「9.11同時多発テロ」。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機激突、という尋常ではない出来事に通訳者達が次々とかき集められました。
NHKはすぐに、アメリカの「ABCニュース」を流すことを決め、通訳者等は同時通訳を始めます。もちろん生放送。自分が通訳した言葉が、テレビを通して全国民に届けられるわけですから、間違えたら大変なことになってしまいます。
同時通訳は、すべてを聞き終えてから訳すわけではないので、先を予測しながらの見切り発車。100%の確信を持って訳すことはできません。かといって、慎重になり過ぎていては一言も言葉がでてきません。
このような状況を、”刺激的”だと感じられる強い心臓の持ち主でなければ務まらない仕事です。また世界中では、胸が詰まるような悲しい事件がたくさん起きています。そんなときも、涙をこらえ、的確に情報を伝えることが放送通訳者の使命なのです。
放送通訳の種類は3つ
放送通訳には、大きく3つのスタイルがあります。
①海外ニュースを時差通訳
本番前に海外ニュースの映像を見ながら、その内容を日本語に訳して簡単な原稿(メモ)を作成、本番では原稿を確認しながら映像に合わせて訳出します。短時間ですが、事前に映像を見て準備ができるぶん、通訳者の負担は小さいです。
従来は、情報の正確性を重視し、事前に原稿を準備する時差通訳が主流でした。しかし最近では、情報の即時性が求められており、生放送の映像を見ながら同時に通訳(生同通)する番組が増えています。
②海外ニュースを同時通訳
緊急ニュースや生中継の際に、送られてくる映像を同時通訳していく手法です。同時通訳には、リアルタイムで通訳する「生同通」と、ざっくりと一度聞いてから通訳する「セミ(半生)同通」の2パターンがあります。
当然、事前に映像を見ることができない「生同通」がもっとも難しく、新人のうちは「時差通訳」や「セミ同通」を担当することが多いです。
一般的に、時差通訳は1人でおこなうのに対し、同時通訳は複数人で交代しながら業務にあたります。これは同時通訳の方が、高度な集中力が求められるためです。
③日本のニュースを同時通訳
日本のニュースを海外に発信するため、日本語を外国語に訳出する仕事です。例えば、NHKでは英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・ロシア語・アラビア語・中国語・韓国語などの通訳者がローテーションを組んで、日々海外に向けてニュースを伝えています。
また、国内の2ヶ国語放送に対応するため、日本語のニュース原稿を英訳する「ニュースライター」という仕事もあります。その際、単純に英訳するのではなく、外国人の視聴者にわかりやすく伝わるように内容を編集して原稿を作成します。
ただし大事件や災害情報、天気予報などは、緊急性が高いため同時通訳で伝えます。
仕事の魅力とやりがいは?
国際報道の最前線で活躍できる
最大の魅力は、国際報道の最前線で活躍できる点です。放送通訳の需要が本格的に高まりだしたのは、衛星放送が開始した1989年といわれています。
その後、1991年に起こった「湾岸戦争」、2001年に人々を震撼させた「9.11同時多発テロ」、2009年の「オバマ大統領就任演説」等など、世界的なニュースが起こるたびに、重大な役割を果たしてきました。
放送通訳の使命は、日本にはまだ伝わっていない海外ニュースをいち早く伝えること。それが重要な情報であればあるほど、大きなやりがいを感じることができます。
知的好奇心を満たしてくれる
ニュースに携わる仕事をしていると、日々世界中で起こった出来事に触れることができます。自分の知的好奇心を満たしてくれる面白さがあり、仕事のたびに新しいことを学べます。
そのぶん、勉強やリサーチをするのは大変ですが、やっていくうちに少しずつ自分の世界が広がっていく感覚を味わえます。
常に刺激と緊張感が伴う
全国のテレビ視聴者を相手にする放送通訳は、”影響力”と”責任”という意味で挑みがいのある仕事です。毎日試験を受けているような緊張感があり、常に世界の最新ニュースに触れられるのは刺激的です。
毎回おわった後は、「もっとこうすれば良かった…」と反省や後悔をする部分が必ず出てきます。どんな優秀な通訳者でも、完璧はありません。だからこそ、次はもっと頑張りたいと思えるやりがいある仕事なのです。
仕事に必要なスキルは?
誰にでもわかる日本語表現
会議・ビジネス通訳などでは、相手が業界人の場合も多いので、専門用語を多用したほうが伝わりやすい場面もあります。しかし放送通訳では、通訳の対象が一般のテレビ視聴者。子どもからお年寄りまで、誰にでも分かりやすい表現が求められます。
そのため、ニュースの内容を正確に理解し、要領よくまとめて、簡潔に表現できなければ務まりません。幅広い分野に精通した知識、高度な英語力、日本語の運用能力が求められる仕事なのです。
また、海外のニュースプレゼンターは、時に弾丸のようにペラペラと喋ることがあります。そんな時も、映像と音声がずれないように調整しながら、視聴者に聞き取りやすいスピードで話すことが大切です。
幅広い分野に精通した知識
放送の現場には、ジャンル問わず、さまざまな領域のニュースが送られてきます。政治や経済の話題ばかりなら良いのですが、スポーツ・健康・ファッションなど内容は実にさまざまです。
また、どのようなニュースを通訳するかは 、現場に行くまでわかりません。日頃から新聞や雑誌に目を通し、いま話題になっているニュースをチェックしたり、専門家と話しをしたり幅広い知識を身につけておくことが大切です。
自分が理解していないことを通訳しても、絶対に相手には伝わりません。通訳とは、通訳者が持つ知識を総動員しておこなう行為です。
専門用語を訳すだけのおかしな訳になってしまわないよう、そのベースとなる知識をしっかりと蓄えておく必要があるのです。
高度な同時通訳スキル
最近では、生放送で同時通訳する「生同通」が増えたため、高度な同時通訳の技術を持つ経験豊富な人材が求められています。
ネイティブがナチュラルスピードで話すニュースを、一度で完璧に理解するには並大抵のスキルでは務まりません。生放送では、少しのミスも許されず、適切な訳をしなければならないため高い集中力も必要です。
例えば、「ノーベル賞」の受賞を伝えるニュース。事前にさまざまな予想は出るものの、実際に誰が受賞するかは、発表されるまでわかりません。
当然、通訳者も情報を集めて準備はするものの、まったく想定外の候補者が受賞するケースも多々あります。特に物理学や生理学、医学分野の場合、受賞理由も専門的なうえに過去の業績に対して送られることも多く、予想外の候補者が受賞したときは本当に大変。
知らない単語が出てくる、訳がしどろもどろになる、わからないから余計に焦る…どんどん悪循環に陥ってしまいます。しかも、自分が担当した部分が高視聴率のニュース番組で使われたら最悪です。
そうならないためにも、どんなに忙しくても事前準備をしっかりとおこなう必要があるのです。しかし、どんなに入念に準備をしていても、現場で予想外のトラブルにあって失敗してしまうこともあるでしょう。
そんな時でも、「めげずに頑張れる」「前向きに次の仕事に取り組める」…プレシャーに負けない精神的にタフな人間が、放送通訳の仕事には向いているといえます。
放送通訳になるには?
放送通訳の仕事場は、放送局。地上波では「NHK」で仕事をする人が多いです。
NHKの場合、系列会社「NHK グローバルメディアサービス」が通訳者を手配しています。新規採用は同社の養成スクール「バイリンガルセンター 国際研究室」の修了生が対象です。インターンとして現場に出ながら勉強を続けられるので、これから放送通訳を目指す人にはおすすめです。
国際研究室の放送通訳コースを受講するためには、TOEIC930〜990点の英語力が必要。そのため、実際に放送通訳の仕事をするなら同レベルか、それ以上の英語力は最低限ほしいところです。
また、NHK以外にも、英BBCがロンドン・東京の2つの勤務地で放送通訳者の採用をおこなっています。そのほかの放送局や制作会社では、放送や映像に強い通訳エージェントを通じて、フリーランスの通訳者を手配するケースが一般的です。
放送通訳者の活躍の場が増えたとはいえ、まだまだ”狭き門”であることに違いはありません。現在活躍している通訳者の多くも、会議やビジネス通訳を経て放送の世界に入ったり、養成スクールでみっちり勉強を積んだ後にデビューしています。
これから放送通訳を目指す人は、放送の仕事のみに絞るのではなく、さまざまなキャリアを積みながらチャンスを伺うのが良いでしょう。
まとめ
今回は、放送通訳の仕事内容について紹介しました。報道の現場は、正確な情報を伝える必要があるため、ミスは許されない厳しいもの。
だからといって、ビビっていても仕方ありません。野球の一流プレイヤーでも、打率はせいぜい3割程度。どんな仕事にも共通して言えますが、何度でも、諦めずに打席に立つことが重要なのです。
1度も打席に立つことなく終える人生ほど、寂しいものはありません。何にでも興味を持ってチャレンジしてみましょう。
「こういう通訳者になろう!」と主体的にビジョンを描き、それに向かって努力し続けることを忘れないでくださいね。
また「放送通訳」のほかに、
といった働き方もあります。興味のある方は、参考にしてみてください。