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消防署は、わたし達にとって身近な存在であるにも関わらず、組織の内側はほとんど知られていません。
消防の職種は大きく、①消防隊員②はしご隊員③レスキュー隊員④救急隊員⑤機関員⑥指揮隊⑦火災原因調査員⑧予防課員⑨航空隊員⑩指令係員に分かれています。
当記事では、消防士が就ける職種と、それぞれの仕事内容についてまとめています。これから消防士を目指す方は、参考にしてみてくださいね。
記事の目次
消防の職種
①消防隊員
消防の仕事の中でも、最も代表的なのが「火災対応」。火災が発生した際、ポンプ車に乗り込み消火活動にあたるのが「消防隊員」です。
消防学校で初任教育を受けて、一番最初に配属されるのが消防隊です。通常、隊の構成は、隊を統率する「隊長」、車両の運転とポンプ操作を担当する「機関員」、消火活動にあたる「隊員」(2〜3名)の計5名前後になります。
新人時代は、現場でホースを取り回す手伝いなどをしながら、先輩たちから消防活動の基礎を学びます。
消火活動で求められるのは、高度な”技”と現場を見極める”眼”。それを磨くために、隊員は日々厳しいトレーニングに耐え、実戦で経験を積んでいるのです。
また消防隊の仕事は、消火活動だけではありません。消火と並行して、煙で視界の全くない暗闇の中で救助活動をおこなう「人命検索」。救急隊員がAED(電気ショックで正常な脈に戻す機器)や人工呼吸器などをポンプ車に登載し、現場に救急車と同時出場する「PA連携」(Pumper”ポンプ車”とAmbulance”救急車”の頭文字)などがあります。
ほかにも、万が一の火災に備えて消火栓などの消防設備が正常に使用できるか点検をしたり、火災が発生した際に対処の難しい建物をあらかじめ調査したりします。
消防隊は、まさに消防業務全般を知ることができる”消防士の登竜門”。隊員の中には、昇任試験を受けずに「一生、消防隊として働き続ける!」といった強い志を持った人もいるほど、奥が深くやりがいのある仕事です。
②はしご隊員
子どもの頃に、「はしご車」に憧れた経験のある方も多いのではないでしょうか。
はしご車を運用したいのであれば、まずは救助隊員になるのが一般的。隊の編成は、2名1チームで隊長が隊員役を兼ねることもあります。
はしご車を運用する際、高所での作業は危険を伴い、救助者の命にも密接に関わってくることから、本部によっては”内部資格”制度を採用しているところもあります。この場合、一定以上の技能と知識を習得し、認定をうけてはじめて現場出場が可能になります。
現場では、車両を操作してベストポジションに停車させるのが機関員、そこから実際にはしご先端のバスケットに乗り込み、放水や救出を担当するのが隊長(または隊員)の役目です。
商業ビルや高層マンションがひしめく現代において、はしご車は欠かせない存在だといえるでしょう。
③救助隊員(レスキュー隊員)
人命救助のスペシャリスト・救助隊員になるには、消防学校の救助科などに入校し、一ヶ月以上の厳しい訓練を受ける必要があります。そこで無事、資格を得ることができれば、晴れて救助隊員になれます。
しかし救助隊は、消防の中でも人職職種の1つ。どの都市でも、非常に狭き門となっています。
そもそも、多くの地域で”1本部1隊”程度と部隊数が少なく、欠員がでない限りは新人が配置されることもありません。そして、欠員もなかなか出ないのが現状です。
たとえば、東京消防庁の場合、隊員が35歳まで、隊長が45歳までといった年齢基準が設定されています。隊員がこれらの年齢に達した場合、または人事異動で隊を離れるタイミングで人材が投入されます。
この仕組みだと、新しい人材が入り込む隙間が生まれにくいのです。ただし、まったくチャンスが無いという訳ではありません。チャンスがやってきたときに、確実に掴み取れるように日頃から準備をしておくことが大切です。
さらに最近では、独自に「高度救助隊」や「特別高度救助隊」といったハイグレード救助隊を配備する自治体も増えてきました。高度救助隊は、一般的な救助事案のほか震災などの大規模災害の対応を目的としており、いわば東京消防庁「ハイパーレスキュー隊」の全国版のような部隊です。
「高度救助隊」や「特別高度救助隊」を目指すなら、これらの隊が配備された中核市などの消防本部に入り、まずは救助隊員になる必要があります。現場で救助隊員としての経験を積み、所属の推薦を得られればメンバーに加わることができます。
また、救助隊(レスキュー隊)の具体的な仕事内容やなるための方法については、以下の記事でもくわしくまとめています。興味のある方は読んでみてください。
④救急隊員
急病人が発生した際に、救急車に乗って出場するのが「救急隊員」。隊の編成は、通常3名1チームで、このうち1名はさらに高度な技術を身につけた「救急救命士」が含まれます。
救急救命士は国家資格で、消防職員なら救急隊員として5年、または2,000時間以上の勤務経験があれば、養成所の研修を受けられます。研修を受講後、国家試験に合格すれば資格を取得できます。
また救急救命士の資格は、消防職員でなくても取得が可能です。最近では、救急救命士の専門コースを設置している大学や専門学校も増えています。在学中に規定の単位を取得し、国家試験に合格すれば資格が取れるので、先に資格だけ取って消防の道に進む人もいます。
救急隊の勤務場所は、消防隊や救助隊と同様、消防署であることが一般的。地域によっては、救急隊だけの出張所を設けている場合や、医療機関に救急ステーションとして待機場所を設けている場合もあります。
⑤機関員
消防車の運転は「機関員」という運転専門の隊員が担当します。というのも、消防車を運転するには国の定める「緊急自動車の運転資格」を満たしたうえで、各本部が定める「内部資格」を取得する必要があるからです。
機関員の資格は、「普通機関員」「ポンプ機関員」「大型機関員」「はしご機関員」の大きく4つに分けられます。
普通機関員は、救急車など普通サイズで、ポンプ操作の必要がない車両を運転するための資格。ポンプ機関員は、ポンプ車の運転・操作をおこなう資格です。
そして、化学車など大型サイズの消防車を運転できる資格が大型機関員です。ただし、同じ大型車両でもはしご車だけは例外なので注意が必要。
人を乗せて空中高く伸びるはしご車の操作は、安全確保が不可欠です。一歩間違えれば、重大な事故に発展しかねません。そのため、はしご車の運転・操作をおこなうには、専門の養成研修を受講後、実技試験に合格する必要があります。
機関員の仕事は、専門性が高く職人技を要するため、人事異動で配置が変わっても再び機関員になれる可能性が高いとされています。
⑥指揮隊
火災現場で的確に状況を把握し、各部隊を指揮・統制するのが指揮隊の役割です。一般的に、1つの現場につき一台の指揮車を配置し、3名の隊員で業務にあたります。
自治体ごとに指揮隊のシステムは多少異なるものの、目的は一緒。現場最高責任者である大隊長を中心とし、指揮隊員が関係者から情報収集をしたり、各部隊と無線で情報交換をしたりします。集まった情報をもとに、大隊長が最終的な方針を決定する流れです。
少数精鋭部隊であり、大隊長は”消防指令クラス”、それをサポートする参謀ポジションも”消防司令補クラス”。どちらも消防組織の幹部になります。
若手には無縁の世界に感じられるかもしれませんが、実際そんなことはありません。迅速に情報をかき集めるフットワークの軽さが求められる「情報担当」や「通信担当」では、多くの若手隊員が活躍しています。
⑦火災原因調査員
漫画やドラマの題材にもなり、じわじわと人気上昇中の「火災原因調査員」。一言で表すなら、火災専門の”探偵”です。
鎮火後に、現場を検証して火災の原因や損害状況を調査します。出火の原因を突き止めて、さらなる火災を防ぐのが目的です。所属部署は、「予防課」または「警防課」に属する「調査係」になります。
調査員になるには、専門の教育を受ける必要がありますが、特に定められた資格などはありません。仕事をするうえで、電気・機械科学・建築といった理系の知識や、法律に関する専門知識があると役立ちます。
ときに灰を掘り返し、その中から原因を見つけ出す調査員の仕事は、強い探究心と粘り強い根気がなければ務まらないといえるでしょう。
⑧予防課員
火災が発生しないように、そして万が一発生した場合に、被害を最小限に食い止めるため、消防設備の設置指導や査察を担当するのが仕事です。
主な仕事内容には、実際に建物内に入り火災発生の危険性がないかを検査する「査察」、新築物や増改築した建物に消防用設備がしっかり設置されているかを確認する「検査」、ガソリンスタンドやタンクローリーなど危険物を取扱う施設の検査や指導をおこなう「危険物検査」、自治会や学校に対して火災発生時の避難方法や消火訓練を指導する「指導広報活動」などがあげられます。
予防課員には、火災発生時に現場に出動する派手さはありませんが、日常的に住民や企業で働く人々と触れ合いながら、被害の予防に貢献しています。
⑨航空隊員・航空救助員
政令指定都市(人口50万以上)にある消防本部の多くは、ヘリコプターを所有し、高層建物火災における情報収集や林野火災での空中消火、山岳救助、水難救助、救急搬送などの際に活用しています。
クルーは、パイロット(操縦士)・メカニック(整備士)・ヘリレスキュー(航空救助員)で構成されています。
パイロットの免許を取得するには、相当な時間と費用が必要なため、一般の消防士とは別枠で有資格者を対象とした採用試験をおこなっています。整備士も同様で、既に資格を持っている人を採用するのが一般的です。
ただし東京消防庁のみ、パイロット、整備士ともに候補生の中から選び、数年をかけて庁内で育成をしています。パイロットも整備士も、非常に専門性の高い職種です。基本的に、一度配属されれば別の職場に異動することはありません。
一方、ヘリコプターに乗って救助活動をおこなう航空救助員は、救助隊員の資格を持つ人が担当します。航空隊とともにヘリポートに常駐することもあれば、通常は救助隊として活動し、必要なときだけ航空隊と合流するパターンもあります。
⑩指令係員
火災が起こった際に、市民から119番通報を受けるのが「通信指令室」。119番通報は24時間対応が求められるため、一時も休むことなく稼働しています。そのため、通信指令室に勤務する「指令課員」は、交代制勤務で働きます。
一般的な業務の流れは、通報が入ったら災害の発生場所を特定し、最も近い場所にいる隊に出動を指示します。そして、司令室から無線を利用して隊を現場へ誘導・統制するのが役割です。
また、救急要請があった際は、電話口にいる通報者に「心肺蘇生法」などを指導することもあります。
通信指令室に設置された「指令システム」は、全国的にハイテク化が進んでいます。たとえば、119番通報を受信した際に電話の所在地が地図上に表示されたり、火災現場を特定すれば直近の出動可能隊がコンピュータで自動選出され、ボタンを押せば即出場指令が発信されたりします。
ほかには、現場に向かう消防隊の位置を、地図上でリアルタイムに把握する「動態管理システム」なども備わっています。
職種・業種によって給料は異なる?
平均給料はどれくらい?
消防士の給料は、「公安職俸給表(一)」が適用されているため、業種による違いはありません。消防士の平均月収は、以下の通りです。
◎20代の給料:20~24 万円(推定)
◎30代の給料:27~30万円(推定)
◎40代の給料:38~40万円(推定)
全年代をトータルした平均月収は36万円、平均年収は約720万円です。ただし、あくまでこれは基本給。消防士の場合、基本給にプラスして「諸手当」が加算されます。
諸手当によって給料が変わる!
諸手当には、①危険作業手当②不快作業手当③重勤務作業手当④非常災害業務手当⑤消防業務手当⑥資格手当などがあります。
つまり、業種による基本給の違いはありませんが、諸手当によって支給される給料額が変わるのです。
たとえば「大型自動車運転免許」を持っていて、はしご車やポンプ車を運転する業務に就いた場合、毎月資格手当が支給されます。ほかにも、「乙種第四類危険物取扱者」の免状を持っている人が、消防署にある自家給油取扱所(ガソリンスタンド)の保安監督者に就いた場合、別途手当が支給されます。
さらに、消防隊(ポンプ隊)に配置されれば、現場に出動するごとに「出動手当」、夜勤があれば「時間外勤務手当」もつくので、日勤の内勤職員に比べて給料は高くなります。
また、消防士には警察や自衛官と同じように階級制度が存在します。階級によっても給料が異なるので、さらにくわしく知りたい方はこちらの記事も読んでみてください。
まとめ
今回は、消防士が就ける職種と、それぞれの仕事内容についてまとめました。
消防士の仕事を、深く知れば知るほど、奥が深くやりがいのある仕事だと実感できると思います。
消防を目指すきっかけは、人それぞれ違いますが、興味が湧いたなら迷わずその道を目指してみてはどうでしょうか。たった一度の人生、大好きな仕事に打ち込み、悔いの残らない人生を歩んで欲しいと思います。
また消防士になるための方法については、こちらの記事でまとめています。興味のある方は、参考にしてみてください。