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あなたは「通訳」の仕事に、どのようなイメージを持っていますか?
通訳は、異なる言語を話す人々のあいだに入り、それぞれの言葉を訳して、両者の円滑なコミュニケーションを手助けする仕事です。
しかし、一概に「通訳」と言っても働き方や手法はさまざま。ここでは、「会議・ビジネス・政治の通訳」「スポーツ通訳」「通訳ガイド」など、ジャンル別に7つの仕事を紹介しながら、どうしたらプロになれるのかをくわしく書いていきたいと思います。
記事の目次
通訳ってどんな仕事?
通訳は、”言葉”で人と人を結び、異文化の架け橋となる語学のプロフェッショナル。将来、通訳の仕事に就きたいと望むなら、最低でも二ヶ国語以上を流暢に操れる高度な「語学力」が求められます。
ただし、単純に「語学力」があるだけでは不十分。言葉を正確に訳すには、豊富なボキャブラリーや表現力、相手国の歴史や文化的な背景、担当するテーマに関する専門知識などが幅広く求められます。
また通訳が必要な場面は、国際会議や講演会、一般企業の商談や視察、日本を訪れる外国人の観光案内、テレビのニュース番組など多岐にわたり、シーンによって求められるスキルも異なります。
いずれの場合も、発言者の伝えたいことを正確に捉え、適切で分かりやすい表現で聞き手に伝えることが大切です。
通訳の種類は?
通訳の手法は、大きく3つに分けることができます。
同時通訳
同時通訳は、話し手が話すのと「ほぼ同時」に通訳をおこなう手法です。話し手の言葉を聞き、意図を素早く理解し、短時間で的確な言葉に訳す能力が求められます。
高い集中力が必要なため、通訳者は「通訳ブース」と呼ばれる外部と遮断された空間で仕事をすることが多いです。また、聞きながら訳す作業は非常に疲れるため、複数の通訳者が10〜20分おきに交代しながらおこなうのが一般的。
通訳をするごとに、いちいち話しを中断する必要がないので、国際会議のほとんどが同時通訳でおこなわれています。
逐次通訳
ある程度まとまった長さの発言(30秒〜1分程度)を、通訳者がメモを取りながら聞き、話し終えたところで一気に通訳する手法です。
通訳の「基本」とも言われており、専門学校や養成所では最初に逐次通訳を身につけ、ある程度習得した段階で同時通訳を学び始めます。
いったん発言を聞いたうえで訳すことができるので、最も正確性が高い通訳手法ともいえます。政府間交渉や証言録取、商談、講演会、著名人の記者会見まで幅広く使われています。
ウィスパリング通訳
同時通訳と同じく、話し手が話すのと同時に通訳をおこないます。ただし、「通訳ブース」のような遮断された場所でおこなうのではなく、クライアントの隣、または斜め後ろに立って耳元で通訳するのが特徴です。
「ささやく(ウィスパー)」ように発話することから、「ウィスパリング」と呼びます。少人数の社内会議や来日外国人のインタビュー時などによく使われています。
活躍の場は?
①会議・ビジネス・政治の通訳
国際会議や政府間の交渉シーン、または一般企業の会議や商談など、政治家や専門家、ビジネスマンの間に入って通訳をおこないます。各分野の専門知識、政治や経済に関する知見、高い通訳スキルが求められます。
②放送通訳
海外のニュースを日本語へ、そして日本語のニュースを英語に訳す仕事です。国内はもちろん、国際情勢や国際時事にも精通していることが求められます。
③司法通訳
外国人が関わる犯罪や事件が起きたとき、警察・検察庁・裁判所などで通訳をおこないます。事件の取り調べや摘発時だけでなく、被告の家族や関係者への連絡係となったり、場合によっては捜査資料を翻訳する業務もおこないます。
④医療通訳
外国人が日本の病院を利用する際、医師や看護師などの医療関係者と意思疎通が図れるようにサポートをおこないます。医療通訳に携わる人々を、「外国人医療コーディネーター」または「医療通訳士」と呼ぶこともあります。
⑤スポーツ通訳
サッカーや野球など、海外で活躍する日本人選手、または日本国内で活躍する外国人選手・監督等の通訳をおこないます。スポーツ通訳の場合、通訳訓練を受けた経験者は少なく、語学のできる元選手や指導経験者がなるケースが多いです。
⑥コミュニティー通訳
在日外国人が、不慣れな日本で行政・教育・福祉のサービスをスムーズに受けられるように援助をおこないます。例えば、外国人が病気で医療機関を受診するとき、役所で行政の手続きをおこなうとき、学校で教育を受けるときなど、サービス担当者と外国人の間を取り持つのが役割です。
⑦通訳ガイド
来日した外国人観光客に日本の魅力を伝え、旅のサポートをする仕事です。「通訳案内士」と呼ばれることもあり、プロの観光ガイドとして働くためには国家試験に合格する必要があります。
仕事の魅力とやりがいは?
語学力を活かせる
仕事の最大の魅力は、自分の語学力を活かして、本来なら成立し得ない2者間のコミュニケーションを取り持つことができる点です。
通訳者がいなければ、その場のコミュニケーションは成立しません。通訳の良し悪しによって、建設的な話し合いに発展することもあれば、たちまち話がこじれて噛み合わなくなってしまうこともあります。
例えば、企業同士の商談の場。重要な取引であればあるほど、会場にはピリピリとした緊張感が漂うものです。徐々に話し手の口調が早くなったり、普段あまり聞き慣れない業界用語やビジネス用語がポンポンと出てきたり…。
こんなとき、通訳者の言葉のチョイスや伝え方によって状況は大きく変わります。企業の将来を左右する重要な判断がなされる場面も多いため、通訳者の果たす役割は大きいと言えます。
さまざまな業界に精通できる
仕事のたびに、新しいことを学べる点も大きな魅力です。
通訳者は仕事を受けると、まずは分厚い資料を読み込み、新しい知識を吸収します。「医学」「経済」「ビジネス」など、ジャンルごとの専門知識を知らなければ正確で適切な訳ができないからです。
また、国際会議やシンポジウムで話題にのぼることは、新しい情報、新しい学問、新しいモノの見方。なんらかの分野で未知の話題でなければ、わざわざ海外から人を招いたり、大勢の日本人が集まることはないでしょう。
仕事を通じて、普段接することのない人と出会えたり、最新の技術情報に触れられたり、自分の知らない世界に踏み込める楽しさは、通訳者の特権ともいえます。
お客様に感謝される
お客様に、「ありがとう」と言ってもらえることが大きな励みになります。
会議の終了後、参加者から「今までよく分からなかった内容が、通訳が入ったおかげで初めて理解できた」と言われたとき。仕事ぶりに満足してもらい「指名」で次の依頼をもらえたとき。
仕事をしていて本当に良かった、と感じる瞬間です。
裏方である通訳は、決して目立つ仕事ではありません。しかし、分かりやすい「高付加価値の通訳」ができるようになると創造的な仕事をしている、という自負と実感が芽生えてきます。
通訳は、優れた語学力を“人や社会のために役立てられる”魅力的でやりがいのある仕事なのです。
必要な語学力はどれくらい?
通訳の仕事に必要とされる語学力の目安は、「英検1級」「TOEIC900点以上」「TOEFL(PBT)600点以上」「IELTS8.0ポイント以上」とされています。
TOEIC
国内で英語の試験を受けようと考えた際、真っ先に頭に浮かぶのがTOEIC(トーイック)ではないでしょうか。知名度が高く、外資系企業や語学力が求められる仕事に就く際も、選定の目安になることが多い試験です。
確かに、990点満点のTOEICで900点以上の高スコアを獲得するのは素晴らしいことです。しかし、TOEICの場合、通訳の仕事の”キモ”になる「スピーキング」の実力を測るのが難しい、といったデメリットがあります。
自分の能力を客観的に測る一つの目安、程度に考えておくとよいでしょう。
TOEFL
アメリカのNPO団体が実施しているTOEFL(トーフル)は、主にアメリカの大学に留学する際に必要となるテストです。
PBT(ペーパー版の筆記試験)で677点満点、そしてCBT(パソコン版の試験)は300点満点、さらにiBT(インターネット版の試験)は120点満点となります。
ちなみに、TOEFLのPBTで600点以上のスコアを獲得できれば、世界屈指の名門私立大学「アイビー・リーグクラス(コロンビア大学やハーバード大学など)」への入学許可が得られるレベルです。
英検
「公益財団法人 日本英語検定協会」が実施している英語検定試験(通称:英検)は、日本では最もポピュラーな試験でしょう。
通訳を仕事にするなら、難関と言われる「英検1級」に合格するくらいの英語力は身につけておきたいところです。
IELTS(アイエルツ)
TOEFLに代わって、英語の試験でスタンダードになりつつあるのが IELTS(満点は9.0ポイント)。世界3,000以上もの教育機関で入学審査の基準として採用されており、移住審査にもよく使われる試験です。
通訳の仕事に就きたいのであれば、IELTSで8.0ポイント(ちなみに、7.0ポイントで海外の医学部や大学院への入学が認められます)を目指すくらいの気持ちで勉強することをおすすめします。
言語以外に求められるスキルとは?
「語学力」は最低限の条件
通訳をするには、ネイティブ・スピーカーに限りなく近い英語力を備えていることが理想です。
しかし、「相手の話しを聞いて理解できる」「正確な発音で話せる」程度の語学力は、本気で通訳を目指すなら身につけていて当然。「話せる」ことと「通訳する」ことは全く別の能力です。
通訳者は、発言者の発する単語を単純に「置換え作業」しているわけではありません。発言者が「本当に伝えたいこと」を理解して、いったん頭の中で整理・解釈し、その内容を最も伝わりやすい形で表現しています。
たとえるなら、すべてを正確に再現する「写真」ではなく、実際に目に見えている「現実」を解釈し、そこに込められた真意を表現する「絵画」のような行為です。
もちろん、自分勝手な解釈を加えるのはNG。そうならないためにも、発言以外のジェスチャーや表情、相手国の歴史や文化も考慮しながら、メッセージ全体を解釈する能力が求められます。
通訳者は、日頃から講演を聞いたり、専門家と話しをしたり、新聞や書籍を読んだり…さまざまな体験を通して、幅広い「知識」や「見識」を身につけ、多彩な表現方法を学ぶ必要があります。
価値観の違いに柔軟に対応できる能力
語学力を磨く以外にも、さまざまな国の「価値観の違い」を理解しなければいけません。
当然ですが、国ごとに文化・生活習慣・風習・宗教などが異なります。なかには、歴史上の理由で特定の国や民族に対して特別な感情を抱く人々もいます。こういった場合、安易な通訳をしてしまうと誤解を招くケースがあるので要注意。
例えば、「迷惑をかけてすみません」という謝罪の言葉。日本語で「迷惑をかけた」は、誠心誠意に謝罪する意味であり、今後は同じ過ちを繰り返さない、どうか許して欲しいといった意味になります。
一方、中国で使われる「迷惑(=添了麻煩)」は、レストランで水をこぼした時に謝る程度の軽い言葉で、真剣に謝るときには使われません。
中国人が怒っている状況で、こちらが丁寧に「迷惑をかけてすみません」と伝えたところで、相手に気持ちが伝わらない危険性があるのです。
また、自分の主張をはっきりと表現しない日本人と、何事もストレートに主張するアメリカ人。両者のあいだに立って通訳をする際も、何かと誤解が生じやすいので注意しましょう。
異国間の”仲介役”である通訳者は、言語の違いはもちろん、価値観や文化の違いまで考慮しながら通訳をしなければいけないのです。
聞きやすく、わかりやすい表現をする能力
正確に訳すだけでなく、「聞きやすく、わかりやすい表現」をする能力も大切です。
通訳者の仕事場はさまざまで、騒がしい場所で通訳をしなければいけないケースも多々あります。そんな時、ゴモゴモとした小さな声や語尾がはっきりしない話し方では、聞き手の耳には届きません。
また、講演会やセミナーの場で、話し手が身振り手振りを交えながら自信たっぷりに話しているにも関わらず、通訳者がボソボソと話していては傍聴者の心には響かないでしょう。
人が他人から情報を受取る際、言語以外の「声・表情・振る舞い・服装」が大きく影響すると言われています。通訳の世界では、その人になりきって訳す「憑依型”通訳”」という言葉があるほどです。
伝えるのは言葉だけではなく“心”。「人と人をつなぐ」には、相手の内面的な部分まで汲みとって通訳する能力が求められるのです。
コミュニケーション能力
通訳はサービス業なので、周りへの気配りやコミュニケーション能力も欠かせません。特に、通訳ガイドや芸能通訳、視察通訳、エスコート通訳などは、グループや人と共に行動しながら仕事をおこいます。
日本人の代表として、相手が快適に過ごせるように「おもてなし」をするのも大切な役目です。また、よいよい人間関係を築くことで、気持ちよく仕事ができるだけでなく、次回の依頼に繋がるケースもあります。
人を喜ばさせたり、楽しませることに喜びを感じられる。そんなサービス精神に溢れた人が、通訳の仕事に向いているといえるでしょう。
通訳に必要な「持ち物」と「服装」
持ち物
◯電子辞書
◯パソコン・タブレット
◯ストップウォッチ(タイマー)
◯ヘッドホン(イヤホン)
◯輪ゴム・ペーパークリップ
◯水・非常食
◯筆記用具
◯メモ帳
服装
舞台の「黒子」のような役割を果たす通訳ですが、人前に立つ職業に変わりはありません。服装や身なりにも気をつかいましょう。
特に、清潔感を大切にすること。ビジネスマナーを心得た服装を心がけましょう。
通訳者になるにはどうすればいい?
通訳者になるためには、高い語学力を身につける必要があります。そのためには、専門学校や養成校に入学するか、独学や海外生活で語学力を磨いた後、通訳エージェントや通訳会社に登録するのが一般的です。
フリーランスとして活躍する人も多い職業ですが、経験や実力の伴わないデビュー当初は、自力で仕事を受注することが難しいでしょう。「最初の仕事をいかに獲得するのか」が何より大きな課題で、仕事を獲得するルートも何通りか存在します。
通訳者になるための「進路先」やキャリアに応じた「仕事の獲得方法」については、こちらのページでくわしく書いています。
通訳の平均年収・給料はどれくらい?
平均年収は400~1,000万円、平均月収は40~100万円ほどになります。
ただし、通訳の仕事は、勤務形態や働き方によっても収入に大きな開きがあります。フリーランスの通訳者、企業内で雇われている通訳者、国際会議の同時通訳者では、報酬(料金)単価がまったく異なるのです。
実力が如実に反映される仕事ですが、自分のキャリアと努力次第で大きく稼ぐこともできる夢のある職業です。気になる「お金の話」は、こちらのページでくわしく書いています。
まとめ
通訳は、異なる言語を話す人々の「橋渡し役」となり、双方が理解できる言語に変換する仕事です。
しかし、その種類や働き方は実にさまざま。将来は「通訳者になりたい!」「外国語を使った仕事がしたい!」と漠然と考えているなら、まずは自分がどんな分野の通訳者になりたいのか、じっくり考えてみることから始めましょう。
そうすることで、
「どのような知識を身につければ良いのか?」
「どのような進路に進めば良いのか?」
「どのように仕事を獲得すれば良いのか?」
自分の進むべき道が、はっきりとしてくると思います。
通訳者になるための一般的なルートを知りたい方は、こちらのページも併せて読んでみてくださいね。